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2009.07.03 *Fri

PC紹介(2):『イリス』 その2

親父の立会いの下でフェールとイリスが握手を交わしてからしばらくの事、二人はリューン郊外の路地にいた。
 そこは様々な店舗が軒を連ねる商業街であり、商品を買い求める人でごった返している。

 すでに正午を過ぎて陽は傾き始めているものの、未だ日差しは厳しいままだ。
 イリスは再びしっかりとフードを下ろすと、日差しに追われる様に先を急いだ。

 あれからイリスは改めてフェールの探し人の話を聞き、地理に明るくないフェールを先導する形で街へと繰り出す事となっていた。
 幸いごく最近受けた依頼でいくつか鍛冶屋を回ったというイリスの案内の元、二人は一軒一軒鍛冶屋を訪ね歩いていた。
 イリスの知る四軒の鍛冶屋の内すでに三軒が空振りに終わり、残す所はあと一軒。
 そこで何も情報が入らなければ、バザクを見つけ出すのは今以上に難しくなってしまうだろう。

 先を行くイリスは足早に人混みを通り抜けていく。
 その表情はいつにも増して険しく、運悪く目のあった通行人が後ずさって道を譲る程であった。

 ただでさえ人混みは嫌いだと言うのに、今日はもう何時間もこの中を歩かされているという事にイリスの機嫌は下降の一途をたどっていた。

(よりにもよってこの一番熱い時間帯を、何でわざわざ歩き回らなければならない訳…?!)

 熱気をはらんだ風が顔に吹きつけ、汗ばむ身体にローブが張り付いて一層不快感が強まる。
 後ろにずり落ちかけたフードをぐっと引っ張り下ろすと、せめてこの人混みから逃れようとさらに足を速めた。

 イリスの知るという鍛冶屋はどれもがリューンの中に点在しており、軽く昼食を取る以外ほとんど歩き通しである。
 それもすべて少しでも早く知人に会いたいというフェールの希望があっての事だった。

(はあ…何でこんな素人同然の子と組もうなんて思ったのかしら)

 深いため息をつくと、憎らしいほど晴れ渡る空をにらみつけた。


 イリスは北方の中流貴族の生まれである。
 代々優秀な魔術師を輩出してきた家の次女として、この世に生を受けたイリスもまた優れた魔術の才の持ち主であった。

 若干七歳にして魔法の才覚をあらわし、師匠について基礎や多くの知識を学んだ。
 その後に入学した学院でも優秀な成績を修め、多くの賞賛を浴びた。

 しかしその賞賛には常に姉の影がちらついていた。

 イリスには三つ年の離れた姉がいた。
 姉もまた優秀な魔術師として名高く、その才は当代一と褒め称えられる程飛び抜けており、『天才』の名をほしいままにしていた。

 母譲りの美貌、父譲りの魔法の才。
 そして、持ち合わせた天性の才。
 しかしイリスにとって、姉はただ優しい姉でしかなかった。

 だが両親や周囲の目は、常に姉とイリスを比較するものばかりであった。
 初めて魔法を使って見せた時も、厳しい父は『姉は五歳でそれをやってのけたのだ』とイリスに背を向けた。
 学院への推薦が決まった時も、気位の高い母は『家名に泥を塗るのではありませんよ』と冷ややかな眼差しでイリスを一瞥しただけだった。

(どうして父さまはわたしを褒めてくれないの?
 なぜ母さまはわたしに微笑んでくれないの? )

 イリスは痛む心を押し殺し、唯一許された魔術に必死に打ち込んだ。
 血の滲むような思いで、姉の最年少記録と同じ年齢で主席にまで上り詰めてみせた。
 それでも両親がイリスに振り向く事は決してなかった。

 家族の中では唯一姉だけがイリスを見てくれた人物だった。
 すでに高名な魔術師の弟子兼助手として働いていた姉が屋敷に戻る事は滅多になかったが、たまに戻れば真っ先にイリスの顔を見る為駆けつけてくれたものだった。

『イリスは優しい子ね』

 姉を思い出すたび、浮かぶのはそう言って笑う姉の笑顔。
 いっそ姉が憎める様な人であったなら、こんなに心が痛むことはなかったのだろう。
 しかし姉は心からイリスを愛してくれた。
 そんな人を、どうして『いなければよかったのに』などと思う事が出来ようか。

 次第にイリスは感情を殺し、ただ魔術にのめり込んでいった。

 リューンの学院への転入の話が舞い込んだのはそんな折であった。
 学院内でも特に優秀な者から希望を募り、更なる知識や異なる魔術様式を学ばせる為に学生を送るというその話にイリスは飛びついた。

 あの家から出られるのならば何でもよかった。
 娘達に優れた魔術の才しか求めなかった父親。
 家名を高める事にのみ関心を持たない母親。
 姉と自分を家名でしか見ようとしない周りの群集。

 それら全てに背を向けて、イリスは故郷を後にした。


 あれから三年の月日が流れていた。
 結局リューンへ来てからも、故郷での評判が付きまとい続けた。
 卒業後、故郷に帰れという父親からの催促も、熱烈にイリスとその才を求めた賢者の塔をも蹴ってイリスが選んだのは冒険者の道だった。

 そこに今までの評価は全くもって通用しない。
 しかし同時にそれは『イリス』という一人の人間として自分を見てもらうという事であった。

 学院の教授からの紹介状を携えて『女神の気まぐれ亭』を尋ねたのがちょうど二週間前。
 多くの人と関わり、そして望む物がないとわかると自ら背を向けた。
 イリスは、ただイリス自身を求める人物を探し続けていたのだった。

 そんな中でフェールはイリスを真っ直ぐに見た数少ない人物であった。
 今までにも人と顔を合わせる事は少なくなかったが、大抵イリスの冷ややかな眼差しと近寄りがたい雰囲気に向こうから目を反らされた。

 あんな風に自分を見てくれるのは姉ぐらいだと思っていたのに。

(…そういえば彼女、ちゃんと着いて来ているでしょうね?)
 
 物思いにふけっていたが為にフェールの存在をすっかり忘れていた。
 ちらりと後ろを振り返ると、数メートル離れてこちらへと歩みを進めるフェールの姿があった。
 少々小柄な体格の彼女は、この人混みに飲まれそうになりながらもなんとか前へ進み続けているようであった。
 しかしイリスから見てもその顔色は白く、目もうつろげに見える。

 そういえば長旅を続けて今朝ようやくリューンへたどり着いたと言っていたはずだ。
 それならば自分よりよっぽど疲労の蓄積がひどいはずである。

(仕方ないわね…)

 ため息をつきかけたその時、ある看板に目を留まり足が止まる。
 ほんの少し思案をめぐらせたかと思うと、再び足早にその店へと向かって歩き出した。
  
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 フェールは半ば意識朦朧としていた。
 これまでの道のりでもそれなりに太陽は厳しかったが、土の地面の上を歩くのと石畳の上を歩くのでは大違いである。
 加えてこの人の多さと、まさにフェールは大都市の洗礼を受けていた。

 交易都市と呼ばれるだけあって、リューンは人種や性別、種族すらも超えて様々な者たちが集まる。
 それを考えればこの程度の人込みは日常茶飯事である。
 これが祭りの時期ともなれば近隣や遠方からも倍近くの人が集まるのだから、リューンで暮らしてきたイリスなどにしてみればこれはまだ序の口といったところだ。

 しかしフェールはそうではなかった。
 もともと幼い頃から両親に連れられて諸国を旅したが、こんな大都市に来たのは生まれて初めての事だった。
 押し寄せる人の波と厳しい陽の光、そして日差しによって暖められた石畳が発する放射熱をまともに受けて、フェールはだいぶ体力を奪われていた。

(イリスさん…イリスさんを追わないと……私の為に頑張ってくれてるのに…)

 止めどなく流れる汗をぬぐい、イリスを探す。
 今日一日共に歩いていてわかったのだが、不思議と彼女の行く先は道が割れ、人の壁が薄くなる。
 身長が低く周りが見渡せないフェールにしてみればそれはいい目印だった…のだが。

「…あれ?」

 今目の前には人の波があるだけで、浮島の様に目の前にあったローブ姿がない。
 もしや追い抜いてしまったのかと急いで後ろを振り返ってみるが、フェールの身長では後方を確認する事は難しい。

(ど、どうしようはぐれちゃった…?
 そういえばここがどこかもわからないのに…)

 半ば泣きそうになりながら首をめぐらせていると、脇の方に人の壁が薄くなっている一角があった。
 とにかく人の少ない所へ行かねば、と必死に波に逆らってそちらへと進み続ける。

「すいませーん! …わぷっ、と、通りまーす!!」

 残りわずかな力を振り絞り、声を張り上げて道を横断する。
 ようやく一角にたどり着いた時には、力を抜けば膝をついてしまいそうな程にくたびれていた。

「フェール」

 聞き間違うはずもない、あのひんやりとした声。
 声の主を求めて顔を上げると、露天の陰の石段に腰掛けたあのローブの姿があった。
 ふらつく足に力をこめてどうにかそこまでたどり着くと、崩れ落ちる様に隣に座り込んだ。

「い、イリスさん…よかったあ見つかって…」

 ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込むと、身体の隅々にまでその空気が行き渡る様だった。
 隣でため息をついた気配に顔を上げると、イリスが両手に持ったカップの片方を差し出していた。

 へ、と気の抜けた声がフェールの口から漏れる。
 しかし「いらないなら捨てるわよ」というイリスの言葉に我に返ると、慌ててカップを受け取った。

 恐る恐る口をつければワインの酸っぱさと蜂蜜の甘み、かすかな香料の風味が口に広がる。
 多少生ぬるくはあるものの、乾いた身体に染み渡らせるには十分だった。

「水分不足はこの時期死活問題よ。
 たとえ室内にいてもこまめに水分を取る事ね。
 動いていなくても身体からは絶えず水分が逃げているから」

 自らもカップに口をつけながらイリスがほっと息をつく。
 先程のため息とは違った風のそれは、無事フェールを見つけた安堵が含まれていたのかもしれない。
 おそらく心配をかけてしまったんだろうと思うと、フェールは申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになってしまう。

「ありがとうございます、イリスさん」

「イリスよ」

 即座に返された訂正の言葉に、一瞬フェールの思考が止まった。 
 え、と聞き返すとわずかに眉を寄せてイリスがこちらを向く。

「年もそんなに変わらないような相手から敬語を使われて喜ぶ人間じゃないわ。
 それに、仮にもこれから肩を並べる相手に畏まってもらいたくないの」

 それだけよ、と小さく付け加えると、スッと目をそらして再び自分のカップに口をつける。
 その眼差しが今朝より少し和らいだような気がして、フェールは思わずくすりと笑みをこぼした。

「…何よ、急に笑ったりして」

 再び不機嫌そうな声が返ってくるが、構わずフェールは笑う。

「イリスは優しい人だなあと思って」

 その言葉にカップを傾けていたイリスの動きが一瞬止まった。
 それに気づかずフェールも一口ワインを飲むと、青く晴れ渡った空を見上げる。

「最初はちょっと怖そうな人かな、なんて思ってました。
 でも私を先導しながらはぐれない様に気遣ってくれたりとか、今もこうして飲み物を渡してくれたりとか…」

 結局はぐれちゃいましたけど、と苦笑するフェールに相槌を打つでもなく、イリスはじっとそれに耳を傾けている。

「私、こんなに人が大勢居る街は初めてなんです。
 おまけに考えるより先にとりあえず動いてみるんで、子供の頃はよく迷子になったりして。
 今も、きっとイリスが居なかったら今頃どこかで倒れてたかもしれないなあ」

 傍で身じろぐ気配を感じ、空から視線を戻すと驚いた表情のイリスとばっちり目があう。
 しかしその瞬間さっと目を反らされてしまったが、それすらもおかしそうにフェールはくすくすと笑った。

「そういえば、イリスはなぜ冒険者に?」

 ほんの興味本位から出た質問。
 しかしイリスの表情がわずかに引きつったのをフェールは見逃さなかった。
 だがそれも一瞬の事で、気がつけばいつもの冷めた表情で手の中のカップをじっと見つめていた。

「そうね……自分の好きな様に生きたかったから、かしら」

 どこか遠くを見る様なその瞳はどこか寂しげで、この質問をした事をフェールはほんの少し後悔した。

「あなたはどうなの?
 探し人…だけではなさそうだけど」

 珍しくイリスからふられた話題。
 イリスが自分に興味を持ってくれたのだと思うと、自然と笑みが浮かんだ。

「私は…いろんな人の役に立ちたいと思って」

「役に?」

 はい、と気恥ずかしげにフェールは笑う。

「父さんには「甘いな」って笑われましたけど。
 昔命を救ってもらった冒険者の人がいて、私もそういう人になりたいなあって…それだけなんですけどね、きっかけなんて」

 そんなフェールを横目に、イリスは呆れた様子でため息をつく。

「確かに子供っぽい理由ね。
 お父様が笑うのもわかるわ」

 冷ややかに言い放たれたイリスの言葉にう、とフェールがうめく。

「けれど、私はとても立派な理由だと思うわ」

 続けられた思いもよらぬ言葉にフェールが振り向く。
 そしてかすかに笑ったイリスの横顔を見て、フェールもまた満面の笑みを浮かべた。

 しかしそれに気づいたイリスは「何よ」と怪訝そうにフェールを見る。

「イリスの笑顔、初めて見れたから」

 恥ずかしげもなく言い放つフェールに、イリスは即座にあさっての方へと視線をそらした。
 「何なのよ」とかなんとかつぶやいていたようだったが、はっと何かに気がつき空を見上げると「しまった」という表情を浮かべる。

「日がだいぶ傾いている…休みすぎたみたいね。
 さ、そろそろ行くわよ」

 そう言ってそそくさとカップを片付けるとイリスは立ち上がった。
 それほど早くない足取りで歩くその後を嬉しそうにフェールが追いかける。

「次ははぐれても知らないわよ」

「はい」

 今度は見失うまいと、フェールはぴったりとイリスの後ろに付き従ったのだった。

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〈後書き〉

予想外にイリスの回想シーンなど長引いた為一端切り。
まさかのイリス編パート2をお送りします。

今回でイリスの過去が明らかになりました。
せっかくリューンに逃げてきたのに、また両親のもとに戻されるのが嫌で帰りたくない?って言ってたと、そういうわけです。

どうにも彼女の心境に入り込めず、難産な回でした。
表情や仕草、台詞一つとってみても「何がイリスをそうさせるのか?」と考え出すとどうしても筆が止まってしまって…。
でも悩んだだけあってだいぶイリスの事がわかった様な気がします。たぶん。

当初は鍛冶屋の店先から始まるつもりが、フェールと親交を深めるエピソードなどが追加されてえらいボリュームになってしまいました。
私のモチベーションもあり、ぐだぐだになっていなければいいのですが…。
やりがちな表現の癖もだんだん見えてきました。
我がボキャブラリーの少なさよ…あうあう。

ワインのくだりは「カップのはかり売りってありそうだよな?」と思って出してみた創作屋台ですw
リプレイを書くにあたっていろいろ調べたりしてみてるんですが…いやあ、なかなかに面白いです中世ヨーロッパ。
水は質が悪いからって事で、かえってワインやエールなどお酒の方が好まれて飲まれてたみたいですね。
だから西洋人に下戸はいないんだとか。
もっともお酒自体の質もよいわけではなかったみたいですが、水単体で飲むよりは飲めたものだったみたいですね。
今回は一般的だったというワインの水割り(蜂蜜とハーブ入り)を出してみました。

次回こそおじいちゃん登場の予定です。そろそろ賑やか面子を入れたいぞ。
では、また次回でお会いしましょう!



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この小説はgroupAsk様製作"Card Wirth"、Y2つ様製作"Card Wirth DASH"を初め各シナリオを基にぐぇんが製作したリプレイ小説です。
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COMMENT

はじめまして、鈴鳴らす金色の狐と申します。

リプレイ拝見させていただきましたー。
同じ金髪碧眼の女魔術師でもうちの子が熱血っぽく見えるのは何故だろう……(笑)

飲み物や風呂については、ローマ時代のインフラをぶっ壊したことが元凶ですね。
現在では炭酸飲料としてお馴染みのジンジャエールも、
熱いエールの中に生姜(ジンジャー)をぶち込んだものが元ですし。
こういう飲み食いの描写が入っているのが好きだったりします。

では、応援しておりますー。
2009/07/03(金) 22:17:09 | URL | 鈴鳴らす狐 #PUKLkuOc [Edit
いらっしゃいませー!
>鈴鳴らす狐さん

こちらでは初めまして、復活おめでとうございます!
読んでくださったとの事でありがとうございます・・!
私も星宿綺譚、楽しみに読ませてもらってます。

イリスは徹底的にクールさを狙って書いてます。
そちらのクロエの様な元気一杯!という子も好きですよw
ぐいぐい引っ張っていくお姉さんっぷり、いいですねえ。

食べ物系とか、こういった生活描写はちょっぴり混ぜただけでもぐっとリアルさが増すので活用していこうと思います。
ジンジャエール、やっぱり名前からするとお酒なのかなーと思ってたんですがそういった由来なんですね。
個人的によく好きで飲んでます。
摩り下ろした生姜を入れるとピリッとスパイシーになるのでお勧めですw

拙い文章ですが少しでも楽しんでいただければ何よりです。
訪問ありがとうございました!
2009/07/04(土) 22:05:44 | URL | ぐぇん #zmJZyRSg [Edit

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